飲食店から姿を消した「生ユッケ」。実は日本で提供禁止になったわけではありません。提供の条件を守るか、個食パックを利用すれば安全に提供できます。本記事では、生ユッケ提供が減少した原因の事件と、安全に提供できる生ユッケの仕入先について解説していきます。
生ユッケは日本で禁止でも違法でもない!
「生ユッケは禁止されているから食べてはいけない」「生ユッケの提供は違法だ」というイメージや思い込みをしている方が多い「生ユッケ」ですが、実は日本では禁止でも違法でもありません。
10年以上前に発生した集団食中毒や、生ユッケが提供できる基準が厳しくなり提供できるお店が少なくなったことで「生ユッケは日本では禁止されている」と思っている方も多いのでしょう。
食品衛生法で定められた「規格基準」を守る、または適切な加工場で製造された個食パック商品を利用するという方法で、生ユッケは提供できます。
生ユッケの提供店が少なくなった原因の事件とは
2011年人気焼肉店で生ユッケが原因の集団食中毒が起こり、5人が亡くなる痛ましい事件がありました。
これが原因となり、生ユッケの提供店が少なくなったといえます。
集団食中毒事件と、提供が禁止されたレバーについても確認していきましょう。
2011年に起きた人気焼肉店での生ユッケ「集団食中毒」が原因
2011年、激安人気焼肉店で集団食中毒が発生し、181人が発症、そのうち5人が亡くなった事件がありました。その原因となったのが、人気メニューの「和牛ユッケ」。
食中毒発症者の体内から発見された「腸管出血性大腸菌」は、牛の腸内や臓器内に生息している菌で、代表的なものはO‐157、O‐111などがあげられます。感染すると体内で「ベロ毒素」という強力な毒素を出して、けいれんや意識障害など治療が難しい症状を起こし、症状が重い場合は死に至ってしまう恐ろしい菌です。
腸管出血性大腸菌は、肉自体には生息していないものの、食肉として処理されるときに表面に付着してしまうことがあります。
一度付着した菌を完全に消毒することは難しく、ユッケとして提供する場合は、生食用食肉の衛生基準に明記されている”表面を均一に取り除くトリミング作業”が必要です。
しかし集団食中毒を起こした焼肉店では、表面を取り除くトリミング作業をしていませんでした。さらに和牛ユッケとして使用されていた肉は、生食用ではなかったことが事件後に判明しています。
事件後、多くの飲食店から生ユッケが姿を消してしまいましたが、提供禁止となったわけではありません。厳しい条件をクリアすれば、飲食店で生ユッケは提供できるのです。
”生ユッケ”の提供は禁止にはなっていない
「集団食中毒の原因はユッケである」と断定されたものの、生肉自体に腸管出血性大腸菌は生息していません。
ユッケ用の肉に菌が付着してしまったものを提供したことで起きてしまった食中毒事件であり、正しい管理と処理を行えば、腸管出血性大腸菌の付着や食中毒を予防できる方法が確立されました。
そのおかげで生ユッケの提供は禁止にはなっていませんが、厳しい生食用食肉の規格基準を守る必要があります。
”生レバー”の提供は禁止になっている
2011年の集団食中毒事件前まで牛の生レバーは提供できていましたが、2012年7月の食品衛生法の改正により牛レバーの生食は禁止されています。
2011年の集団食中毒をきっかけに、厚生労働省が牛の生レバーの安全性を調査したところ、牛レバー内部から腸管出血性大腸菌やカンピロバクター属菌が検出されました。
生ユッケのように厳しい管理や処理を行っても、どれだけ新鮮だとしても生レバー内部には菌がいることがあり、有効な洗浄方法や殺菌方法が見つかっていません。牛レバーの生食や、飲食店での提供は禁止となっています。
参考:牛レバーを生食するのは、やめましょう(「レバ刺し」等)|厚生労働省
生ユッケの提供許可店になるにはどうしたらいい?
生ユッケを飲食店で作り、提供するには保健所への届け出と、生食用食肉の規格基準・表示基準を守ることでできるようになります。
生ユッケ提供の規格基準・表示基準を守る
生ユッケを加工・調理する場合は、食品衛生法で定められた「規格基準」を守る必要があります。
生食用食肉の規格基準をチェックしていきましょう。
《生食用食肉(牛肉)の規格基準》
1.対象 | 生食用食肉として販売される牛の食肉(内臓を除く。)(例)ユッケ、タルタルステーキ、牛刺し、牛タタキなど |
2.成分規格 | ・生食用食肉は、腸内細菌科菌群が陰性であること・陰性確認の検査記録は1年間保存しておくこと |
3.設備や器具 | ・加工は他の設備と明確に区分され、器具及び手指の洗浄及び消毒に必要な専用の設備を備えた衛生的な場所で行わなければならない。肉が接触する設備は専用のものを使用し、一つの肉塊の加工ごとに洗浄及び消毒を行わなければいけない。・器具は、清潔で衛生的かつ洗浄及び消毒の容易な不浸透性の材質で、専用のものを用いること。 |
4.加工方法 | ・枝肉から衛生的に切り離された肉を、速やかに気密性のある容器包装に入れて密封し,肉塊の表面から深さ1cm以上の部分までを60℃で2分間以上加熱する方法またはこれと同等以上の方法で加熱殺菌をし、速やかに4℃以下に冷却すること。・加熱殺菌に係る温度及び時間の記録は1年間保存すること。 |
5.調理方法 | 4.の加工がされたものを調理・提供すること。調理した生食用食肉は、速やかにお客さまに提供すること。 |
6.保存方法 | 生食用食肉は、4℃以下で保存すること。ただし、生食用食肉を凍結させたものにあっては−15℃以下で保存すること。 |
7.加工者について | 生食用食肉の加工・調理は、「生食用食肉(牛肉)の安全性確保に必要な知識を習得した者(認定生食用食肉取扱者)」が行うこと。※認定者以外が加工・調理を行う場合、認定生食用食肉取扱者が直接指導・監督する必要がある |
参考:
H23.09.28 生食用食肉(牛肉)の規格基準設定に関するQ&A|厚生労働省
規格基準の重要なポイントを簡単にまとめると、以下のようになります。
- 大前提として、食中毒を起こす菌が陰性でなければいけない。
- 調理場とは別に、生ユッケを加工・調理するための設備を整えなければいけない。
- 適切な加熱処理(肉の表面から深さ1cm以上の部分までを60℃で2分間以上加熱)をしなければいけない。
- 生ユッケの加工・調理は、認定生食用食肉取扱者と認められた人ができる。
- 認定生食用食肉取扱者以外(認定されていないスタッフ・アルバイトなど)が加工・調理する場合は、直接指導・監督しなければいけない。
※認定生食用食肉取扱者が不在の場合は、加工・調理はできない。
飲食店にとって非常に厳しい条件かもしれませんが、これらの規格基準を守ることができれば、生ユッケの提供はできるようになります。
また生ユッケを飲食店で提供する場合は、消費者への注意喚起の表示を行う必要があります。
「消費者への注意喚起の表示」とは、「生肉を食べることは食中毒のリスクがあります」「子どもや、高齢者など免疫力が弱い人は生肉を食べるのを避けてください」という内容の表示を、お客さまが分かりやすいように伝えなければいけないということです。
店内ポスターやメニュー表に記載し、必ずお客さまの目に触れられるようにしておきましょう。
保健所への届け出をする
生ユッケを加工・調理、販売する場合は、保健所への届け出が必要です。飲食店がある都道府県の保健所にまずは問い合わせて詳細を確認してみましょう。
認定生食用食肉取扱者の養成講習会が開催されていたり、生食用食肉に関する詳細な案内があります。
都道府県ごとの条例によって異なりますが、生食用食肉を提供するための営業許可証などの届け出も必要なため、「これくらいは大丈夫だろう」と独断で提供するのは禁物です。
生ユッケを提供するには信頼できる仕入先を見つけることが重要!
生ユッケを加工・調味するには、規格基準を守ることで提供ができるようになります。
しかし設備を整える必要があり、認定生食用食肉取扱者が不在のときは提供できないなど、生ユッケ提供するには厳しい条件をクリアしなければなりません。
「生ユッケを提供したいけど、準備が大変」と諦めてしまいそうになりますが、仕入先によっては生ユッケの「個食パック」を提供しています。個食パックの生ユッケを製造している仕入先では、認定工場や国際規格をクリアしているため安心・安全。
個食パックは、1人分の生ユッケを密閉された状態のまま、お客さまに提供できる商品です。お客さま自身で開封し、調味液を混ぜて召し上がっていただくため、飲食店での加工・調味が不要なため、設備もいりません。
本記事「飲食店におすすめ!生ユッケの仕入先5選」でも個食パックの生ユッケが仕入れられる会社を紹介しているため、ぜひチェックしてみてください。
飲食店におすすめ!生ユッケの仕入先5選
ここからは、飲食店におすすめの生ユッケ仕入先を5つご紹介していきます。
特に、個食パックでそのままお客さまに提供できる商品製造をしている仕入先がおすすめです。
飲食店に最適な商品が、きっとあるはずなので入念にチェックしてみてください。
株式会社カミチク -鹿児島県産黒毛和牛の、生ユッケ個食パック-
- 生ユッケの「個食パック」で、解凍したらそのままお客さまに提供できる
- 未開封のまま提供できるから、加工用の専門設備や監督者も必要なし
- 徹底した品質管理、ISO22000を取得した自社工場で安心・安全の製造
株式会社カミチクでは、簡単にお客さまに提供できる「個食パック」タイプの生ユッケを仕入れられます。
パックから出して味付けなどをして提供するとなると、専用の設備や保健所への届け出が必要になります。未開封のまま提供して、お客さまご自身で開封していただくようにすることで手軽に飲食店の一品として取り入れられます。
国産黒毛和牛ユッケ、鹿児島県産黒毛和牛ユッケ、上村牛ユッケの3種類があり、とろけだす肉のうまみをお客さまに堪能いただけます。
株式会社 山形ミートランド(さがえ精肉)-山形牛の、生ユッケ個食パック-
- 山形牛の、噛むほどにあふれだすうまみを楽しめる生ユッケ
- 「個食パック」で未開封のまま、手軽に生ユッケを提供できる
- 生食加工認定工場で、厚生労働省の定める新たな衛生基準で加工しているから安心・安全
さがえ精肉では、極上の山形牛を使用した生ユッケを仕入れられます。
生食加工認定工場で、厳しい衛生管理のもと「個食パック」の生ユッケを製造しているので安心・安全。解凍してそのまま提供できる手軽さが嬉しいポイントです。
認定工場のみならず、厚生労働省の定める新たな衛生基準で加工しており、品質へのこだわりが強い信頼できる仕入先です。
JA全農ミートフーズ株式会社 -九州産黒毛和牛の、生ユッケ個食パック-
- 「個食パック」の九州産黒毛和牛ユッケが仕入れられる
- 店舗での作業なし・薬味・タレを添えるだけで手軽に提供できる
- 厚生労働省認可済の、生食用食肉専用工場で製造しているから安心・安全
JA全農ミートフーズ株式会社では、「個食パック」の九州産黒毛和牛ユッケが仕入れられます。JA全農ミートフーズの九州産黒毛和牛ユッケのおいしさは、ひとつひとつ手切りで作るこだわりの製法にあります。
厚生労働省認可済の生食用食肉専用工場で、管轄保健所の監督のもと安心・安全な生ユッケの製造をしています。
密封された個食パックのままで提供することで、飲食店で加工用の施設や設備を準備することなく生ユッケを手軽に提供できます。お店ならではのタレや薬味をそえて、オリジナリティを出していきましょう。
米沢ミート株式会社 -米沢牛・山形牛の豊富な品ぞろえ-
- 米沢牛・山形牛の牛肉を仕入れられる
- 徹底した衛生管理、温度管理を実現した加工室で作業されているため安心
- 個食パックの生ユッケは販売していないため、飲食店での加工が必要
米沢ミート株式会社では、「米沢牛」「山形牛」の卸売販売を行っています。
米沢・山形枝肉市場から一頭ずつ、吟味し納得のいくものを仕入れて、徹底した衛生管理のされている食肉加工室で作業されています。
生産システムに応じて最新設備を導入し、徹底した衛生管理、温度管理を実現しているため安心・安全です。
米沢ミートでは個食パックの生ユッケを製造していないため、ウチモモ肉などを仕入れて飲食店で加工する必要があります。ただし、加工・調味をするには調理場とは別に設備を整えたり、保健所への届け出が必要なため注意しましょう。
また、米沢ミートでは徹底した衛生管理がされているものの、仕入れた牛肉を生ユッケ用に使用したい場合には、一度問い合わせて確認することをおすすめします。
有限会社宇田ミート -ブランド牛の仕入れなら宇田ミート-
- 国内・国外からお肉を仕入れ自社加工場でカットや加工をしている
- 松阪牛や飛騨牛をはじめとしたブランド牛や、黒毛和牛の牛肉各部位を仕入れられる
- 個食パックの生ユッケは販売していないため、飲食店での加工が必要
有限会社宇田ミートでは、国内・国外からお肉を仕入れ自社加工場でカットや加工をし、飲食店やホテルなどに卸販売をしています。
松阪牛や飛騨牛をはじめとしたブランド牛の牛肉各部位、黒毛和牛の取り扱いもあります。宇田ミートの加工場はHACCP認証を取得しており、衛生管理が徹底された安心できる牛肉の仕入先です。
ただし、宇田ミートでは個食パックの生ユッケを製造していません。仕入れた牛肉を飲食店で生ユッケとして加工する必要がありますが、加工・調味をするには調理場とは別に設備を整えたり、保健所への届け出が必要です。
宇田ミートの加工場は徹底した衛生管理がされているものの、仕入れた牛肉を生ユッケ用に使用したい場合には、一度問い合わせて確認することをおすすめします。
有限会社宇田ミート|松阪牛や伊勢どりを扱う食肉卸(牛肉、鶏肉、豚肉)
「生ユッケは違法」は間違い!基準をクリアして安全でおいしいユッケの提供許可店になろう
生ユッケの提供は、生食用食肉の規格基準・表示基準を守ることでできるようになります。しかし、設備を整えたり、ユッケを作っても良いと認定された人しか加工・調理はできないという厳しい条件があります。
食肉メーカーによっては、飲食店で調理せず密閉された個食パックを、未開封のままでお客さまに提供するという手軽な方法があります。
この場合、ユッケに加工するわけではないため、加工のための設備は必要ありません。
基準をクリアして提供許可店になる、もしくは手軽に提供できる生ユッケの個食パックを仕入れて安心・安全に提供しましょう。